ギリシャ神話をモチーフにした、珍しいTL漫画を知っていますか?
それが『我慢しないで、ハデス様。 ~冷酷な冥王の純愛は底知れないほど深くて、重い~』(漫画:くりおね。 原作:フォクシーズ武将)。
ゼウスの浮気エピソードの印象が強いギリシャ神話ですが、本作ではタイトルからわかる通り、ギリシャ神話きっての愛妻家・ハデスがメインキャラクターとして描かれています。
ゴージャスで煌びやかな世界観で紡がれる物語の魅力をたっぷりご紹介しますね♪
冥王ハデスと、女神の娘・ペルセポネの物語のおさらい
本作のモチーフはギリシャ神話の中でも有名な、冥王ハデスと、女神の娘・ペルセポネの物語。
知らなくても十分に楽しめるのですが、知っているとより面白く感じられると思います。本作の紹介に入る前に、元ネタとなるエピソードを簡単に要約します。
ハデスが豊穣の女神・デメテルの娘であるペルセポネに一目惚れし、冥界に連れ去ってしまいました。
デメテルは怒り狂い、職務放棄をしたせいで植物が地上に生えず、人々も神々も大騒ぎ。
伝令神ヘルメスに説得されたハデスは、ペルセポネを母の元に返します。しかし、すでにペルセポネは冥界でざくろを食べてしまった後でした。冥界で食べ物を口にした者は、冥界に繋ぎ止められてしまう決まり。
それからペルセポネは1年のうち3分の2を母の元で、3分の1を冥界でハデスの妃として過ごすことになった……という物語です。
愛のためには手段を選ばないハデス、神話の時点でちょっとTLのヒーローっぽさがありますよね(笑)。
あらすじ・キャラクター
物語の舞台は、「神界」「冥界」「地上界」で世界が隔たれていた時代。
神界で久々に、女神がひとり誕生しました。
彼女の名前はペルセポネ。
植物の開花を促進する力を持つ、花の女神です。
豊穣の女神であり、上司でもあるデメテルから仕事はテキトーにすればいいと言われても本人はやる気満々!
楽しく植物のお世話に励んでいましたが、ある日育てていた新芽が枯れてしまいました。
その植物の「死」を受け取りに来たのが、冥界の支配者・ハデス。
彼は悲しみに嘆くペルセポネを優しく励まし、ふたりは惹かれあっていきます。
そんななか、神界の陰謀に巻き込まれてエロスの「愛の矢」を受けたハデスは、愛する人へのあらゆる欲を抑えられなくなってしまいました。
つまり、ペルセポネへの欲情が止まらない状態に!
ハデスを救うため、ペルセポネは自らの身を差し出すことを決め……。
真面目で美しい冥王と、天真爛漫な花の女神の恋物語が紡がれていくのです。
物語の見どころポイント
くりおね。先生の凄まじい画力で、ハデス様の美しさ、ペルセポネのかわいらしさを堪能できるのが本作の魅力。
さらに原作のフォクシーズ武将先生のストーリーテリングによって、ギリシャ神話を新たな解釈で楽しむことができます。
ここでは、その魅力の一端をご紹介します。
凄まじい画力で描かれる、美しい神々
見てください、この艶めかしいハデス様を……。
ハデス様は性愛を司る神・エロスに「愛の矢」を射られ、発情状態に陥ってしまうのですが、そのときの様子があまりにセクシー。
下がり眉で少し弱さを見せつつ、ペルセポネを大切にしたくて我慢するところなんて「エロス(神)よりエロス……」と思わずつぶやきたくなります。
そしてペルセポネが冥界から神界に帰ろうとしたときには一転、「冥王に愛されたらもう神界には戻れない」と独占欲と執着をあらわに。
TL漫画のヒーローとしての魅力を兼ね備えています。
一方、ヒロインのペルセポネもとても魅力的な存在です。
彼女の真っ直ぐさ、勤勉さ。そして恋した相手へ、自分の素直な気持ちをきちんと伝えられる積極性。ハデス様が恋してしまうのも納得です。
TL漫画なのでハデス様とペルセポネのラブシーンがたくさんありますが、そこもやはり見応え十分!
くりおね。先生の画力で、神々が息づく世界が本当に美しく、艶めかしく、ゴージャスに表現されているんです。
私たちが知ってるギリシャ神話とはちょっと違う!?
面白いことに本作の世界観は、私たちが知っているギリシャ神話とちょっと違うのです。
例えば、ペルセポネと豊穣の女神デメテルの関係。
ギリシャ神話ではデメテルはペルセポネの母親です。でも本作では、デメテルはペルセポネの上司という役どころ。
神話だとハデスにペルセポネを攫われ激昂したデメテルですが、本作では今のところ1話に少し出てきただけです。
さらに、この世界では「誕生」と「死」が存在しないとされています。
ゼウスは浮気三昧の絶倫男というイメージ通り、神々と快楽に耽っているのですが(笑)、避妊薬を飲んで新たな生命を誕生させないようにしているのです。
誕生と死がない……つまり変わらない世界で、数百年ぶりに誕生した変わり者の女神がペルセポネ。ハデスは「あなたはきっと特別な存在なのだ」と彼女を慈しみます。
ギリシャ神話に詳しい人は「誕生がない? だったら出産を司る女神ヘラはどうなるの? そもそも人間はどういう扱いなの?」と思うかもしれません。
その謎は、単行本2巻で少し明かされています。
TL漫画としても、世界の謎が少しずつ明らかになる物語としても楽しい本作。いろんな人におすすめできる、間口が広い漫画なんです。
ハデス様とペルセポネの純愛!
ギリシャ神話との違いもあれば、同じところも。
それはハデス様とペルセポネの純愛!
ギリシャ神話でハデスとペルセポネのエピソードが有名なのは、ゼウスなどほかの神々と違ってハデスがほぼ浮気をしないからじゃないかな、と思っていて(笑)。
本作のハデス様も、神話と同じようにほかの女神には目もくれず、誠実かつちょっと重いくらい一途にペルセポネを愛します。
またギリシャ神話では、ペルセポネはスイセンの花を摘んでいるときにハデスに攫われます。本作でもスイセンはふたりを結ぶ花として描かれているんです。
こういった心憎い演出も、作者のおふたりがギリシャ神話をリスペクトしているからこそだと思います。
ちなみに、ギリシャ神話研究家の藤村シシンさんは、著書の『古代ギリシャのリアル』で「『正しいギリシャ神話』があるわけではない」と書いています。
ギリシャ神話はいつも語り直され、生き物のように時代に合わせて変化します。どうぞ皆さんもお気に入りの神様を見つけて、好きな解釈やエピソードをここに加えて語り直してください──古代ギリシャ人がそうしたように!
引用元:『古代ギリシャのリアル』 © 藤村シシン / 実業之日本社
くりおね。先生とフォクシーズ武将先生が、新たな解釈で語り直したギリシャ神話──それが本作なのかもしれません。
まとめ
『我慢しないで、ハデス様。 ~冷酷な冥王の純愛は底知れないほど深くて、重い~』は、TL漫画としても、新解釈のギリシャ神話としても、とても面白い物語。
愛が重い男・ハデスと天真爛漫なペルセポネの恋と冒険を、ぜひ堪能してみてください。
現在、単行本は2巻まで発売されています。
単行本1巻には番外編、2巻には現パロといった描き下ろし漫画も収録されているので、ふたりの違った一面を見たい方は要チェックです♪
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