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『汐風と竜のすみか』海と風の街で始まる、ちょっと不思議な同居生活

『汐風と竜のすみか』1巻書影
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

みなさん、「竜」と聞いてどんな姿を思い浮かべますか?
伝説の生き物、神聖な存在、あるいはどこか畏れ多いもの──それはつまり「特別」な存在。
では、もしその竜が“人の姿”で、普通に同じ街に暮らしていたとしたら?
その「普通」「特別」が交差する場所に、どんな物語が生まれるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、宝島社が毎年開催する『このマンガがすごい!2026』 オンナ編で第5位にランクインした一作。喪失を抱えた少女と異形の少年の心の交流を描いた現代青春ファンタジーです。

縞あさと先生が描く、全編を通して爽やかな風を感じる本作のストーリーから、まずはご紹介していきましょう!

あらすじ

高校2年生の円山瑞花(まるやま みずか)は父の死をきっかけに、住み慣れた場所を離れ、叔父・汐田慈治(しおた よしはる)の住む海辺の街・篭崎(こもりさき)へ引っ越すことに。

「でもおじさんが…一緒に住もうって言ってくれて嬉しかった!」
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

篭崎は古くから竜人(りゅうじん)と呼ばれる少し変わった能力や特徴を持つ人々が住む街として知られていました。叔父の慈治は竜人研究所の職員をしており、瑞花と同じ高校2年になる少年を下宿させているとのこと。そして新居となる慈治の家についた瑞花が目にしたのは、身体にキラキラとしたウロコを持つ少年。なんと同居人は竜人だったのです。

「俺が竜人だって聞いてないの?」
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

彼の名前は墨浦天辰(すみうら てんしん)。緊張しつつもコミュニケーションを図り、なんとか仲良くなろうとする瑞花ですが、天辰の態度はけんもほろろ。あまりの冷たい態度に瑞花は「私だって……好きでここに来たわけじゃないのに……」とつい本音をこぼして、家を飛び出してしまいます。

「好きでここに来たわけじゃないのに……」
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

しかししばらくすると瑞花の居場所を知らないはずの天辰が迎えに現れ、自分の匂いを辿って迎えに来たという話を聞いた瑞花は、「竜人」が持つという不思議な能力の一片を知るとともに、彼の不器用な優しさを垣間見るのでした。

いよいよ始まった瑞花の新たな生活。初めての街で初めての学校に初めましての友だち、そして初めて出会った竜人の男の子と、初めての同居暮らし――。
初めてだらけのこの街で、瑞花の心はどのように成長してゆくのでしょうか?

見どころポイント

それでは以下に、本作で特にオススメしたいポイントを選り抜いてご紹介します!

ポイント1. 竜と共生する街・篭崎

まず真っ先に挙げたいのは、本作の大きなテーマを担っている「竜人」という存在。そして彼らと共生する篭崎という街の存在です。ヒロイン・瑞花が同居することになった竜人の男の子・天辰を通して、瑞花自身、そして読者である私たちは、竜人がどのような存在なのかを少しずつ知っていくことになります。

物語の舞台である篭崎の地には、竜を守り神として祀る墨浦神社があり、その存在の知名度はなんと世界規模!? 言い伝えによると、大昔、この地に竜が現れて土地の娘との間に子を授かり、それ以降この地にルーツを持つ人々の中から、竜の特徴や能力を備えた者が生まれるようになったのだとか。そんな彼らのことを「竜人」と呼ぶのだそうです。

和菓子屋の大女将が語る竜神伝説
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

竜人は、見た目はほとんど普通の人間と変わりません。街の人々にとって、竜人のいる暮らしはすでに日常の一部となっていますが、その一方で、どこか一目置かれる存在でもあるようです。
例えば彼らの身体に生えるウロコは、地元では見つけると縁起物として扱われ、フリマサイトで高額取引されるほど! そのことからも竜人が特別な存在として認識されていることがうかがえます。

フリマサイトで高額で出品されている竜人のウロコ
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

竜は日本では古くから馴染み深い伝説の生き物。水や風をあやつる神聖な存在として、時には自然の恵みの象徴として、また時には神様の化身として、多くの神話や伝承に登場してきました。篭崎の人々も信心深い人が多いようですが、一方で竜人研究所が設置されているなど、スピリチュアルな信仰と科学的な研究、その両面から竜人と向き合っている街なのだという印象を受けます。

「研究所」と聞くと、研究対象としての竜人の処遇が心配になってしまいますが、竜人である天辰が、竜人研究所の職員である瑞花の叔父・慈治と仲良く暮らしている様子を見る限り、その点はひとまず安心して良さそうです♪ 

さらに、竜人は地域おこしの呼び水としても一役買っているようで、そうした点からも、篭崎の人々は、竜人に真面目に向き合いながらも、時には少し図々しくちゃっかりと頼りつつ(笑)、大切に守り、長い年月をかけて共存する関係を築いてきたのでしょう。

「ようこそ竜人の街へ」と書かれた篭崎観光協会の幟
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

1巻では天辰たちと同じ年代の竜人が何人か登場しますがみんな個性的なので、ぜひその目でチェックしてみてください! いずれは他の年代の竜人たちも登場するのかも?と思うとワクワクします♪

ポイント2. ちょっと不思議な「ふつー」!?の男の子・天辰

「竜人」について少し触れましたが、竜人は「竜と思しき特徴や能力を備えた者」とのこと。竜人である本作のヒーロー・天辰については慈治曰く「身体にちょっとウロコがある以外はふつーの男の子」。ついでに、「人より感覚が鋭かったり、頑丈だったり、少し変形するくらいで……」って、変形!? それ、もはや「ふつー」じゃないですから! 案の定、瑞花も心の中でかるーく突っ込んでいます(笑)。

叔父の慈治が竜人の天辰を瑞花に紹介する
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

実は天辰、その「変形」で、空、飛びます。
その颯爽とした姿はまるで風のよう。

翼を広げる竜人・天辰
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

他にも意のままに竜の腕にトランスフォーム! その手でおばあちゃんの頭をなでなでしたり、腕で飛んできた打球を跳ねのけたり、匂いで瑞花の場所を特定したり、自分勝手に動く半透明のシッポを発動させたり……「ふつー」のレベルはゆうに超えてます!(笑) 

竜の手で街の和菓子屋の大女将の頭をなでなでする天辰
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

さらにはクールなイケメンで学校でも人気者。「竜人」というミステリアスな肩書きも相まって、学校の女子たちにも絶賛、推されております♡ なんなら、天辰と同じ竜人である幼馴染みにも推されている様子……? 

そんな「ふつー」とは思えない天辰ですが、瑞花を元気づけようと大好物の麻婆豆腐を作ったり、見世物になりたくないという理由からあまり飛ばないことにしているのに連絡が取れなくなった慈治を探すために飛んだり、はたまた取れたウロコは律儀にも研究所に寄付していたり。瑞花を通して読者は彼が本当は繊細で真面目な優しい男の子だということを知ってゆきます。
竜人特有の性質を取っ払ってしまえば、残るのは「ちょっとぶっきらぼうだけど面倒見が良い家事が得意な高2男子」というキャラクター。一般人と何ら変わりのない「ふつー」の男の子なんです。

恐らく天辰はこれまで、竜人である自分に対する周囲の人間の反応や態度に傷ついたり、抗おうとしたり、諦めたりをしてきたのでしょう。1巻でははっきりと言葉にされることはないものの、天辰が「竜人」という存在であるがゆえの孤立感が空気感として描かれています。

私たちはたとえ悪意があってもなくても、たとえ敵でも味方でも、見た目や肩書きといった表層的な違いに影響されやすいものです。しかし「特別」なことは天辰にとっては喜ばしいことではなかったのです。ここにきて改めて見返すと、冒頭で天辰を「ふつー」と言った慈治の人柄がわかります。表面的なものより内面に重きを置いて天辰を瑞花に紹介した慈治……なんて良い人なの……。

そして、血筋なのでしょうか、瑞花も天辰を「ふつー」に扱っています。最初こそ瑞花と衝突するものの、あっという間に打ち解けていく様子が見られるのは、天辰のことを瑞花が「ふつーの男の子」として接する子だと、天辰が感じたからではないでしょうか? 

ちょっと不器用なところがあるふつうの男の子って感じだ
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

1巻では、天辰の過去や背景はまだ詳細には語られていませんが、今後、徐々に明らかになっていくはずです。彼のことをさらに知ってゆく中で、もっともっと本当の天辰を目撃することができそうな予感♪ そう! 「ふつー」でいられることこそが彼の一番の魅力。今後の展開がますます楽しみです♪

ポイント3. まっすぐな気遣い屋ヒロイン・瑞花

3つ目のおすすめポイントは本作において最も重要で、読者の好感度をガッチリつかむこと必至の“気遣い屋ヒロイン”・瑞花の存在!
実はこれが、いちばんおすすめしたかったポイント。だからこそ、あえて最後に取っておきました♪

瑞花は物語の冒頭で、「父親を亡くす」という大きな喪失を経験しています。
「父が亡くなり、独りになった」と語っていることからも分かる通り、すでに母の姿はなく、瑞花は突然、大きな孤独の中へ放り出されてしまいました。

それでも瑞花はその孤独を表に出すことなく、新しい環境に向き合っていきます。天辰に対しては初対面で自分から積極的に話しかけて少しでも仲良くなろうと努めますし、転校初日には、自らクラスメイトに声をかけようとするガッツを見ることもできます。

初対面の瑞花が「天辰って呼んでいい?」と天辰に問いかける
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

父も母もいないという現実をおくびにも出さず、明るく振る舞っている瑞花ですが、彼女の本当のすごさはその健気さを武器にしないところ! 心の中では色々と複雑な想いが渦巻いているのに、その想いを外に出すときには重くなりすぎない。その絶妙なバランス感覚は、読者である私たちに汐風が吹き渡るような心地よさを感じさせてくれるのです。

クラスメイトたちからは、のんびりしていてお気楽な「ふつー」の転校生に見えるかもしれませんが、大切な人を亡くした瑞花の内側は思いのほか繊細。ふとした瞬間に、その孤独や不安が顔を覗かせる場面も描かれています。

無事に見つかった叔父に抱きつく瑞花
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

父を亡くしたことで、誰かの体調不良や安否に対して過敏に反応する瑞花。自分自身が心配性であることをきちんと自覚できているところから、彼女がこれまで喪失や悲しみから目を背けずに対峙してきたことが垣間見えます。
ほかにも友達との関係が気まずくなる可能性があるようなこともきちんと伝えようとしたり、悪いと思ったことはすぐに謝る。そんな瑞花の真っすぐで誠実な性格が伝わってくるシーンが、作中には何度も登場します。

出ていくと言う天辰に謝り引き留める瑞花
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

また、瑞花は他人の心の領域に踏み込みすぎません。天辰に聞きたいことや言いたいことがあってもそれを気軽に口に出したり、無理に問いただしたりもしません。この距離感に天辰をはじめ、救われる人が多くいるはずです。「こんな子が友達だったらいいな」と思わずにはいられません!

さて、気づいた方もいるかも知れませんが、絶妙な距離感、思いやりがあって、義理堅く、気遣い屋さん……これは瑞花だけでなく天辰にも当てはまりますよね? 

天辰「気ぃ使われた…」
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社
瑞花「なんか気を使われた気がする…!」
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

2人とも、「よそ者である」という共通の孤独も抱えています。
似ている2人だからこそ惹かれ合い、少しずつ心を通わせていくのでしょう。

これから似た者同士である“2人の気遣い屋さん”の絆が、どんどん深まっていく様子に目が離せません。

コミックスPVもチェック!

現在『汐風と竜のすみか』は、【花とゆめコミックスチャンネル】にて、コミックスPVが配信中♪

物語の冒頭部分が魅力的に演出されていて、爽やかな色彩や波の音、海鳥の鳴き声、そして動きが加わることで臨場感たっぷり! 絶対に本編を読みたくなるハズです♡

絶賛発売中の最新巻もチェック!

『汐風と竜のすみか』2巻書影
引用元:『汐風と竜のすみか』
© 縞あさと / 白泉社

現在『汐風と竜のすみか』はLaLaにて絶賛連載中。
コミックスは2巻までが発売中です。
天辰の魅力にノックアウトされた皆さんは、ぜひチェックしてみてください♪

まとめ

いかがでしたか?

『汐風と竜のすみか』は「違いを尊重し合うこと」の尊さ、そして「特別」と「普通」の難しさを優しく問いかけてくれる一作。

瑞花と天辰が成長していく姿を見守る楽しさもさることながら、2人から教えられることもしばしば。読み進める中で、誰かと向き合うときの距離感や思いやりについて改めて考えさせられてしまう──そんな不思議な魅力を持っている作品なのです!

ぜひ、手に取っていただければと思います。
誰かを大切に思うとき、そっと思い出すような大切な一冊になるでしょう。

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紙・WEB媒体問わず活動中のフリーライター。
映画をはじめアニメ、コミックなどなどサブカルの海をひろ~く漂い中。

『このBLがやばい!』『PASH+』はじめ、漫画家、声優、監督、脚本家のインタビューも多数。

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