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2023年に発売した人気TL漫画の特徴を分析! 第1回「TL統計 2024」をお届けします

連載
TL統計 2024

こんにちは。初めまして。マンガ表現をデータ化する研究をしている牧田翠と申します。同人で活動しており、「エロマンガ統計」という名前で男性向けの美少女コミックやBL、そしてTLなどを分析・研究しています。

今回は、Qunnさんから「最近の人気TL漫画の傾向を分析してみませんか?」とお声がけいただきまして、2023年の人気単行本40冊分、264編を調査させていただきました。今回から数回に分けて記事にしていく予定です。

統計とは言っても、数式の出てこない、気軽なグラフ漫談となっています。数値を見ながら、TLあるある!と思ったり、そう言われてみれば……と確認したりしながら読んでいただければと思います!

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分析内容

今回は、舞台設定などの背景、ヒロインとヒーローふたりの出会い方や関係性が変化するきっかけについて見ていきます。

時代や舞台などの設定

図1 TL漫画の舞台設定
図1 TL漫画の舞台設定

TLは「ティーンズラブ」。ティーンと名前がついているから10代が中心で学園モノが多い……というわけではありません。

歴史的にいえば2010年くらいまでは少女マンガの延長として、性も含めたティーンが主人公の恋愛マンガとして描かれていました。

しかし、東京都の青少年保護条例の改正(当時「非実在青少年」などで話題になった改正)をきっかけに、登場人物が18歳以上とわかるようにオフィスなどを舞台にすることが増え、現代では「ティーン」が登場する作品はかなり少なくなっています。実際に集計してみると、学園(高校など)を舞台にしている作品はゼロでした。

自分の主張をはっきり言える悪役に憧れるヒロインが仕事の愚痴をぶっちゃけることで二人の関係性が進展していく現代オフィスを舞台にした作品(『魔王な課長の手下になりました。』三浦ひらく / 宙出版)
自分の主張をはっきり言える悪役に憧れるヒロインが仕事の愚痴をぶっちゃけることでふたりの関係性が進展していく現代オフィスを舞台にした作品
引用元:『魔王な課長の手下になりました。』© 三浦ひらく / 宙出版

舞台としては、説明が最少で済み、感情移入もしやすい現代日本が半数を占め、その中でも職場を中心にしたストーリーが多くなっています。他の誰も評価してくれない仕事を評価してくれるヒーローにキュンときたり、冷徹な上司が自分のことを助けてくれたり……そんなオフィスならではのシチュエーションが描きやすくなっているからだと思われます。

例えば異世界転生の設定では、最初に現世での「死」が描かれた後に「私はやりこんでいた乙女ゲームの悪役令嬢!? そしてあれは推しキャラ!?」と驚いて、転生を受け入れるまでの流れが描かれてから、ヒーローとの物語が始まります。それに比べて現代ものでは、「なぜその会社にいるのか」などの背景の説明は不要になり、すぐに恋愛事情が描けるというメリットがあります。

過労死して、ハマっていたゲームの世界の悪役令嬢に転生するヒロイン(『王子の本命は悪役令嬢』Re:mimu / 彗星社)
過労死して、ハマっていたゲームの世界の悪役令嬢に転生するヒロイン
引用元:『王子の本命は悪役令嬢』 © Re:mimu / 彗星社

とは言っても、「異世界転生(特に悪役令嬢もの)」はすっかり市民権を得ていて、1割程度の作品が異世界転生系のファンタジー世界の物語を描いていました。流行りのジャンルであるためか、物語の背景についての説明も最小限で進む印象があります。同様に1割程度の割合でみられた現代ではない歴史・時代を舞台にした作品も「大正時代の軍人もの」「中国の後宮もの」など、ある程度テンプレ化できるパターンで見られました。それに対してSFや未来を舞台にした作品は、説明が多くなる舞台設定であるためか、今回は見られませんでした。

わかりやすい現代オフィスや、テンプレ化しているジャンルなど、最小限の舞台背景を描いて、ヒロインとヒーローの関係性の変化を楽しむのが現代のTLのスタンダードだと言えるでしょう。

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ヒロインとヒーローの出会い方

図2 ヒロインとヒーローの出会い方
図2 ヒロインとヒーローの出会い方

恋愛物語のスタートとして最初の関係性を決めるのが出会い方。どんな場所で出会った相手なのかを集計してみました(図2)。

最も多かったのが職場での出会い。オフィスを舞台にした物語が全体の半数だったことからも納得できます。また、入ったバーで偶然出会ったなど、運命的な出会いも好まれていることがわかります。

職場で出会った営業部のエースに密かな憧れを抱いているヒロイン(『九条さんは一晩中抱けるド絶倫 ~豹変男子のイキすぎ絶頂テクニック』星月奏 / オーバーラップ)
職場で出会った営業部のエースに密かな憧れを抱いているヒロイン
引用元:『九条さんは一晩中抱けるド絶倫 ~豹変男子のイキすぎ絶頂テクニック』
© 星月奏 / オーバーラップ

また、幼馴染も多くなっています。高校や大学での出会いも含めて考えると、昔なじみの関係性は多く描かれていると言えます。なぜヒーローがヒロインに惚れているのかの理由づけに5年10年も過去の話なども出てきていて、ヒーローがずっと一途に想い続けていた、という重めの愛情に説得力を持たせるようになっています

18年ぶりに幼馴染と再会すると彼はイケメンの弁護士になっていた(
『黒弁護士の痴情 世界でいちばん重い純愛』すみ / ぶんか社)
18年ぶりに幼馴染と再会すると彼はイケメンの弁護士になっていた
引用元:『黒弁護士の痴情 世界でいちばん重い純愛』
© すみ / ぶんか社

お見合いやアプリを含めた紹介での出会いには様々なバリエーションがありました。「アプリで相性が最高な相手!」と出会う場合もあれば、「親の決めたお見合いで強制結婚!」いうパターンもありました。

図3 舞台ごとの出会い方
図3 舞台ごとの出会い方

さて、舞台ごとにどんな出会い方が多かったのかを示したのが図3です。現代日本(オフィス以外の作品)では偶然の出会いが最も多く、次いで幼馴染となっています。

同様に、現代オフィスを舞台にした作品では大半が職場での出会いとなっていることが見えます。逆に職場で出会ったパターンはオフィス以外の舞台設定では見られていません。時代ものや異世界でも職場で出会う可能性はありますが、現代以外ではヒロインが貴族(悪役令嬢など)である場合も多く、そもそも働いていないので職場で出会えない、ということもあるようです。そういった歴史・時代ものや異世界転生ものでは、幼馴染か偶然に出会うかのいずれかになっていることがわかります。

部族のために結婚させられたヒロインだが、相手は実は幼馴染だったことが発覚する(『燕嵐閨中顧話』コナ / viviON THOTH)
部族のために結婚させられたヒロインだが、相手は実は幼馴染だったことが発覚する
引用元:『燕嵐閨中顧話』
© コナ / viviON THOTH

こうやって見ていくと、どの舞台設定であっても、相手が幼馴染であったり、偶然の出会いをしたりというパターンは一定の需要があることがわかります。オフィスを舞台にした作品でも、幼馴染のいる会社で働いているとか、バーで偶然出会ったのが取引相手の副社長とか、そういった出会い方も描かれていました。

偶然出会ったヒーローと徐々に関係を深めていくのか、昔から愛情を抱えていた幼馴染からの激重感情を受け止めるのか、そんなストーリーの流れが見えてきます。

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関係性が変化するきっかけ

どんなきっかけでふたりの関係性が変化していくのかをまとめたものが図4になります。こちらは重複して2つや3つの要素が出てくる場合はすべて集計しています。

図4 変化のきっかけ
図4 変化のきっかけ

さて、今回は上位3つが同率で並んでいます。まずは出会ったことそのものが関係変化のきっかけになるパターンです。新たな出会いから関係が進んでいく、というのは物語の基本ともいえるでしょう。

次にふたりの再会から変化している、という分類。幼馴染同士の再会というパターンももちろんありましたが、実は本編の数年前に出会っており、そこで惚れてしまったヒーローがヒロインを見つけ出す……という再会パターンも複数の作品で見られました。

また、TLならではと言えるのが突然の結婚、というパターンです。恋愛を経ずに突然結婚することになってしまったヒロインや、様々な理由で契約婚をすることになってしまったヒロインなど、翻弄される状況下でヒーローとの関係を深めていくストーリーには一定の人気があるのだと考えられます。こうしたある種の劇的な出会いや再会によって、物語を急速に動かして関係性を高めていくことが求められているのだと思われます。

さらに飲酒によって、ヒロインが思わず本音を吐露してしまったりすることで始まるストーリーです。興味深いのはヒロインが酔っ払って思わず、という描写はあってもヒーローが前後不覚になるまで酔っていた、という描写は存在していませんでした。お酒を飲んでもヒーローは「ほろ酔い」程度で、酒が入ったから思わず襲って、のようなストーリーはありませんでした。TLのヒーローの行動動機は「ヒロインが好きだから」という動機が基本であり、「酒の勢い」のような、動機をあいまいにするようなことは好まれないのだと思います。

酔っ払って、偶然出会った年下の男子学生に悩みを打ち明けるヒロイン(『小悪魔ワンコはsweet sexy ‐お姉さんの全部を僕に愛させて?‐ 上』ヤマト蛍 / ブライト出版)
酔っ払って、偶然出会った年下の男子学生に悩みを打ち明けるヒロイン
引用元:『小悪魔ワンコはsweet sexy ‐お姉さんの全部を僕に愛させて?‐ 上』
©ヤマト蛍/ブライト出版/CLLENN

また、仕事の内容変化によって関係が変化していくパターンもあれば、様々なピンチに颯爽とヒーローが表れて救ってくれる、という物語も複数見られました。仕事の変化なら、例えば取引先の相手と話していくうちにお互いに惹かれていくとか、お互い仕事仲間として切磋琢磨しあって関係を深めていく、というストーリーがありました。また、ピンチからの救出なら、消防士ヒーローが火事の現場から助けてくれる、元カレに絡まれているところを助けてくれる、などの描写が見られました。カッコいいヒーローを表現できるうえ、ヒロインが惚れるのも理解できてしまうきっかけといえるでしょう。

職を失ったヒロインを、専門学校時代に服飾作りで相棒兼ライバルだったヒーローが助けにきたシーン(『俺じゃねぇとダメなくせに〜この男、愛し方も超一流』真純 想 / モバイルメディアリサーチ)
職を失ったヒロインを、専門学校時代に服飾作りで相棒兼ライバルだったヒーローが助けにきたシーン
引用元:『俺じゃねぇとダメなくせに〜この男、愛し方も超一流』
© 真純 想 / モバイルメディアリサーチ

他にも、相手に弱みを握られて……!というパターンや、特に大きな事件などもなくゆっくり変化していく、というゆるやかな変化パターンもありました。

騙されて多額の借金を背負うことになったヒロイン。その弱みに付け込んで強制結婚を迫るヤクザなヒーロー(『絶倫ヤクザの極上愛撫 逃れられない契約結婚』真坂 / ぶんか社)
騙されて多額の借金を背負うことになったヒロイン。その弱みに付け込んで強制結婚を迫るヤクザなヒーロー
引用元:『絶倫ヤクザの極上愛撫 逃れられない契約結婚』
© 真坂 / ぶんか社

面白いのは失恋についての非対称性。ヒロインの失恋がきっかけになる場合はあっても、ヒーローが失恋したから、という物語は見られませんでした。もちろん、ヒーローにも昔に付き合っていた相手がいる場合もあるのですが、それは過去の話であり、そのことを引きずっている様子は見られません。ヒロインが元カノの代替品にならないように注意深く描かれていると言えるでしょう。ヒロインも失恋している場合は相手がクズ男であるなど、ヒーローとは比べ物にならない場合が多く、代替品ではないことがわかるように描かれています。

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まとめ

さて、第1回は全体の構造について見てきました。TLはわかりやすい舞台設定で、ヒロインが翻弄されるようなストーリー展開(幼馴染との再会、強制結婚など)が見られることや、ヒーローが純粋にヒロインのことを想うような設定になっていること(飲酒や失恋のなさ)などがわかりました。

次回はヒロインとヒーローがどんな属性を持っているのか、そちらを見ていきたいと思います!

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Writer
牧田翠

マンガの表現をひたすら数えて語る統計エンターテイメント同人誌「エロマンガ統計」を2007年から執筆する野生の研究者。マンガ、ゲーム、ラノベ、BL、同人誌などにおける描写を集計し、分析している。

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