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美しくも儚い異形の淵へ引きずり込まれそう! 花を喰らう鬼と、婚約者の少女の物語『花燭の白』

少女漫画レビュー
『花燭の白』表紙画像
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

──「花燭(かしょく)」とは婚礼の際灯される華やかな灯火のことを言い、転じて婚約中の女性を指す──

今、ラノベや漫画で熱い視線を集めている「人外」ジャンル。これは、獣人や妖魔、妖怪など、「人ならざるもの」を主要キャラクターとして描いた物語の系統のことです。人外という人間の枠を超えた存在が物語の世界観を押し広げ、読者の想像力を存分に掻き立ててくれるのが魅力のひとつといえるでしょう♡

『花燭の白』(高山しのぶ)も、花を喰らう端麗な鬼と、そんな鬼の花燭となった少女の物語。儚くも美しく、そしてときに残酷な鬼の世界に引きずり込まれる読者が続出中です!

唯一無二で独特なストーリー展開が気になりますよね♡ さっそく内容をチェックしてみましょう!

あらすじ

舞台となるのは、まだ非科学的な迷信がまかり通っていた大正の時代。帝都の新聞記者・木曽(きそ)は、人が突然ミイラのように死ぬ謎の奇病「枯死病(こしびょう)」を取材していました。その過程で彼は、枯死病で息絶えたのに生き返る人間が稀にいることを突き止めましたが、記事にするには情報量が足りません。

ある日、木曽は「理性を溶かす香り」がする少女、白梅(しらうめ)に出会います。彼は彼女から情報を聞き出そうとしますが、白梅は「二度と私とその病に関わらないで」と言い姿を消します。なぜか白梅のことが気になって仕方のない木曽は、枯死病のことを調べてゆけば、やがて彼女自身に行き当たるだろうと取材を進めることに。

「枯死病で亡くなった人の遺体に花が咲く」という新しい情報を得た木曽でしたが、その直後、この世のものとは思えない形相の化け物に喰われそうになります。化け物が目の前に迫った瞬間、白梅が木曽の前に立ちはだかり、彼の命を救います。
そして、その化け物を仕留めた謎の男こそが……美しい鬼、沈(じん)だったのです。

登場人物

白梅
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

白梅(しらうめ):没落した武士の家系だが、生まれながらの痣があり「忌み子(いみこ)」と呼ばれ疎まれ続けていた。ある日、鬼に襲われているところを沈に助けられ、その身に沈丁花(じんちょうげ)の花が咲いたことから沈に価値を見出され、彼の花燭となる。

沈
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

沈(じん):白い髪と赤い目を持つ美しい鬼。人間は食べず、鬼をすべて屠(ほふ)るのが自分の宿業(しゅくごう)であると言う。山村で鬼に襲われていた白梅を助けたとき、彼女の傷から自分が探していた沈丁花が咲くのを見て白梅と契ることを決める。

木曽
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

木曽(きそ):社会面担当の新聞記者で、帝都の三大財閥のひとつ、木曽商店の四男坊。チャラ男のような雰囲気で、記事の代わりに自作の小説を提出してはデスクに怒られているが、それは「不確定な情報で社会に混乱を与えてはいけない」という配慮から。

見どころポイント

各キャラクターの背景にさまざまな事情が見え隠れするなど、壮大な物語が幕開ける予感でいっぱいの本作。1巻では、新聞記者の木曽との出会い、そしてそこからさらに遡って白梅と沈の出会いが描かれています。

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作品を貫く、引き込まれそうなほど圧倒的な「美」

牡丹や藤、沈丁花などの花々に囲まれて手を取り合う、白無垢の白梅と羽織袴の沈の表紙絵。この物語において一貫して感じられる美しさは、まさにこの婚礼シーンの表紙に集約されていると言っても過言ではないはず。

死体に咲く花を鬼が喰らうという世界で、白梅は沈に助けられたことから身体に沈丁花が咲くようになります。白梅がまとう香りは「沈香(じんこう)」と呼ばれ、鬼たちにとってはたまらないほどのかぐわしい香り。また人間に対しても、木曽をもって「身を焦がすような衝動」と言わしめたり、病気の子どもに花を飲ませると症状が落ち着くなど、不思議な作用を持つようです。

沈香を放つ白梅
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

白梅が鬼と対峙するシーンでは、背景に漂うホタルの光のような描写が、まるで白梅の芳香を現しているかのよう。鬼が本性をあらわす恐ろしいシーンですら美しさの片鱗が散りばめられ、読む側も、まるで濃い花の香に酔うかのような感覚に陥ります。

読み進めているうちに、読者の脳内で香りまで再現されているかのような、えもいわれぬ臨場感も味わえる、そんな不思議な作品なのです。

沈をかばう白梅
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

ダークファンタジー&ミステリー要素も楽しめる!

枯死病で一度は死んだものの生き返った老人や、死後に鬼によって操られた赤子、鬼子母神など、この作品にはダークファンタジーとミステリー要素も満載。異形となった者はみな恐ろしい化け物に変貌をとげており、他のシーンが美しいだけにその姿のインパクトも絶大です!

さらに鬼は、人と人の間に混じり、記憶を操作して長年の友のように場に馴染む性質もあるそうで、「鬼はどこに隠れているのだろう?」「この人は本当に善人なのか?」というミステリー要素も楽しめるんです!

新聞記者の木曽
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

甘いだけの恋愛ストーリーでは物足りない人や、登場人物の思惑が何層にも折り重なるストーリーを求めている人にも最適といえるでしょう♫

少女を溺愛する美しい鬼……人外ファン切望の甘い展開が!?

契を結んだ白梅と沈、お互いを思いやるシーンにも注目です!

1巻では白梅が沈の花燭となった物語が丁寧に描かれています。白梅と沈は深い信頼関係で結ばれているように見えますが、沈はどこか冷静で、白梅が沈丁花を咲かせるから側に置いているのではとも思えたり……。

沈と白梅
引用元:『花燭の白』©高山しのぶ/一迅社

でも、ご安心を! 巻末のあとがき漫画で作者の高山先生が書いている通り、1巻では「契約結婚」に近い形ですが、今後は「本物の溺愛」に変わっていくようです。

鬼と人間が、数々の困難を乗り越えながら時間をかけて貫く愛……。そんな切ない要素が、ふたりの関係をさらに高潔なものに昇華させているのかもしれませんね。

ボイスコミック動画もチェック!

2022年、コミックZERO-SUMの創刊20周年を記念した特別企画でボイスコミック動画が作成されました!

CVは白梅が矢野優美華さん、沈が石田優人さん、木曽が鈴木将之さん。みんなイメージにピッタリですね♪

しかも、なんと1話をフル配信! 見ごたえもたっぷりなので、ぜひチェックしてくださいね♡

まとめ

耽美で繊細なタッチで描かれた鬼の物語『花燭の白』、いかがでしたでしょうか?

現在、コミックスは8巻まで刊行しており、物語は月刊コミックZERO-SUMにて絶賛連載中♪
読み始めたら世界観にハマって一気読みしたという人も続出です!

また、電子版1巻には、コメディ風の白梅と沈の物語が限定描き下ろし特典として収録されています。
デフォルメされたふたりがとってもかわいく、ファン必見です!

「人外が出てくる作品が大好物♡」という人も、「人外……未知のジャンルだわ!」という人も、ぜひぜひ読んでみてくださいね。